17文字の小さな旅と書道

関東支部 五味渕さん 
 


当時、生涯学習の講座を主催する機関の案内書に「書道」の講座がなかったので、チャレンジの意味で「俳句」の講座に2年間近く通いました。かつて俳句がブームのときに、この世界への参加を勧められたこともあり、また、川柳も可で、17文字で季節の風物などをまとめるのも楽しみでした。

この講座の講師は放送番組の進行役を務めた方で、約90分の中で吟行(作句のため、同行者が屋外や名所旧跡に出かけて行くこと)を行い、次の講座で三句を持ち寄り、投句(俳句を投稿すること)して句会を催す内容です。また、名句鑑賞と称して、有名俳人の俳句の解説も加わります。受講者の中には、お住まいが近所の方や何らか経験のありそうな方もいました。

講座の開催場所が神田にありましたので、吟行はこの界隈のニコライ堂、湯島天神(現地集合)、神田明神、折り紙会館、山の上ホテルと会食を兼ねたそば処などなどです。講座は「てくてく俳句散歩」と称していましたので、教室から現地迄も散歩でした。これらの「小さな旅」は拙い出来ながら、季節の思いを17文字にまとめる時間を費やす良い機会になりました。 
 神田明神

吟行の題材は様々です。例えば、ニコライ堂のイコン(聖画像、祈りの「窓口」)、湯島天神の牛の像と菊祭り、それに神田明神では遠望できるスカイツリーや銭形平次の碑、お神輿の格納の社と紫陽花の園、また、折り紙会館へ向かうイチョウ並木、文豪の仕事場であり、少しお値段の張る珈琲とケーキの有名な山の上ホテル、季節のそばが品書きに有り、柚子そばが美味しく頂けるそば処、江戸城の鬼門の護り神の太田姫神社などなど、東京の風情が凝縮した東京の一角での季節を求めての印象深い「小さな旅」でした。

  俳句の世界は自分なり同席の他人が、17文字に五感で季題を表現する定型詩と思っています。しかし、文字の表現は大へん難しく、何度か言葉にしながら推敲をし、一つの作品にしていきます。この講座での句会は各自が三句を投句して、選句、名告り(なのり)、合評、講評となります。出来の良し悪しがある中で、特に多くの方に選ばれる作品が出来上がると気分が良くなります。この講座で構評が「明るく壮大」と評して頂いた一句を紹介します。

「向日葵や野辺一面の笑ひ顔」 (吟行なしのときの投句)

一方、前稿(8月号)で記した「書道」については、その後、生涯学習の講座に「書道」が登場することに依り、今は漢字、かな文字などの各文字に、度々出会う機会があり、毎月の予定に合わせて自宅での練習を含めて、筆使いの上達の歩みを一つ一つ進めています。

作品としては、芭蕉の句を色紙に収めました。偶々、料紙(りょうし。仮名の書には、色や文様で装飾加工をほどこした紙を用いてきました。)を頂いたので、この句の夏らしさはこの紙の持つ背景が草色では無く、日の照っているような色や文様のうえに、文字を書していますので、夏草の印象と定型詩の風景がどのように映るのでしょう。

 
講座の仕上げ作品(仮名文字 芭蕉「奥の細道」の一句から)
「夏くさやつわもの(徒者毛能)どもが夢のあと」

最後に
この僅かな年月の幾多の「小さな旅」は、17文字に取り組む中で、一時間余で行けるあの場所この場所の思いが少しずつ甦ります。そして、「書の親しみ」は、芭蕉の「奥の細道」の一地点へも、物語の一端を昔話へと誘い、この俳人の旅の観光スポットのそこここを、再び訪れてみようとの気持ちにさせてくれます。
(2020年8月20日)